東大卒無職が9か月で公認会計士試験を突破した記録

仕事を辞めて受験専念をした東大卒が6か月で公認会計士短答式、その後3か月で論文式に挑んだ記録です。

【令和4年公認会計士論文式】企業法論文式答案の書き起こし

私の企業法の開示答案の書き起こしをしておきます。答案の内容と点数の目安になれば幸いです。

改めて答案を見てみると、論理構成が雑な部分、何を言っているのかよく分からない部分に今でも気づけます。

本試験の感想はこちらからどうぞ。

 

第1問 素点28 偏差値64.2

問題1

本件契約が「多額の借財」(362条4項2号)に該当する場合、取締役会の決議が必要となる。「多額」については会社等により相対的に判断する必要があるが、本件契約の借入は200万であり、甲会社の総資産の0.1%であること、1000万円以上の借入が取締役会の決議が必要とされていることから、本件契約は「多額の借財」にはあたらない。

次にBに本件契約にかかる業務執行の権限があるかが問題となる。Bは単独で本件契約を行っているため363条1項2号を満たさない。Bが代表取締役(363条1項1号)にあたれば、本件契約の業務執行権限を有することとなる。代表取締役の選定は原則として取締役会が行う(363条2項3号)ところ、Bは本件規定に基づき自らを代表取締役として定めている。ここで代表取締役の選定を株主が決議する本件規定の効力が問題となる。代表取締役は会社の代表者であるところ、その選定は会社の所有者である株主が決議をしても問題はないと解する。よって本件規定は有効である。また、株主気が一人である場合、株主総会の決議と株主の意思が反することはないため、株主総会によらずとも株主はその意思により代表取締役の選定を行うことができる。

甲会社は公開会社(2条5号)でなく、種類株式発行会社でもないため、その株式のすべては譲渡制限株式であるが(107条1項1号)、AからBへの株式の譲渡は取締役会決議を経て適法に行われ、名義書換も適法に行われているため(130条)、Bは適法に株主としての資格を有する。よって、Bが自身を代表取締役として定めたことも適法である。

以上よりBは代表取締役として業務執行権限を有しているため、本件契約の効果は甲会社に帰属する。

問題2

Cは甲会社に対して339条2項の損害賠償請求を行うことができるか。ここで、339条2項における「正当な事由」の意義が問題となる。

339条1項の趣旨は、役員等に対する株主の監視機能である一方、339条2項では、その権利の乱用を防止し、役員等の一定の利益を保護することが趣旨である。よって「正当な事由」は役員等がその職務を行うにあたり客観的な障害が生じていることと解する。

また、株主等に対する信頼の喪失が客観的な障害にあたるかが問題となるが、株主に対する信頼の喪失の原因が、当該客観的な障害により生じ場合には客観的な障害となると解する。役員等の一定の利益を保護する339条2項の趣旨と整合的だからである。

本問において、株主BのCに対する信頼の喪失は、BとCの私生活上のトラブルが原因であるため、解任の「正当な事由」にはあたらない。

また、363条2項の「解任によって生じた損害」は、役員等が職務執行の対価として得るはずの報酬と解するのが自然であるため、Cは甲会社に対して解任がなければ得るはずであった報酬を請求できる。

 

第2問 素点35 偏差値69.3

問題1

本件新設分割では、丙会社から丁会社へのB事業に関する債務が承継される。新設分割において新設分割後「新設分割株式会社」に対して債務の履行を請求することができない債権者は、新設分割株式会社に対して異議を述べることができる(810条1項2号)。債務の承継により債務の履行の請求を新設分割株式会社へ行うことができないことから債権者の利益を保護するためである。

本件新設分割では、B事業にかかる債務については丁会社のみが弁済の責任を負うことから、新設分割株式会社たる丙会社には債権者はその債務の履行を請求できない。よってB事業にかかる債務の債権者は丙会社に対して本件新設分割について異議を述べることができる。なお、本件新設分割では人的分割等類似行為は行われないため、810条1項2号ただし書に定められる債権者は異議を述べることができない。

問題2

Aの請求が認められるかは764条2項における債権履行の請求が認められるかによる。764条2項では①810条1項2号により新設分割が異議を述べることができる債権者で、②810条3項に規定する場合には不法行為により生じた債権について格別の催告を受けていないことが要件である。

まず、一般用医薬品の異物混入は不法行為であるが、一般用医薬品を製造するB事業が丙会社から丁会社に承継された後で、当該医薬品への異物混入が判明している。ここで不法行為に対する会社の債務はいつの時点を持って生じるかが問題となる。

不法行為に対する債務は、その不法行為により損害が発生した実質的な原因が認められる時点で生じると解する。764条2項の趣旨が不法行為により損害を受けた者の利益の保護であるため、新設分割によりその債務の履行を請求することができる債権者の範囲を広く解し保護することが妥当であるためである。

本問の異物混入は令和4年4月、新設分割の登記がなされ、丁会社がB事業に対する一切の権利義務を承継した後で判明しているが、異物混入によるAの損害は令和3年5月、新設分割が行われる前に生じている。よって異物混入という不法行為によりAに生じた損害対する債務は丙会社に帰属することとなる。また、この債務はB事業に関するものであるため、本件新設分割により丁会社が承継する。

以上からAは本件新設分割後、新設分割株式会社たる丙会社に債務の履行が請求できない債権者であるため①を満たす。また、丙会社は本件新設分割について官報及び電子公告による公告は行っているが、不法行為により生じた債務の債権者たるAに格別の催告を行っていないので②も満たす。よって当該請求は認められる。